強烈な一撃が側頭部に…冷静な武双山も「キレました」
立ち合いで激しく当たり合った2人は、気迫のこもったパワー全開の突っ張り合いを展開。武双山の右からの突きでやや横を向いた千代大海が向き直った瞬間、武双山の横殴りの右張り手が千代大海の左の顎にヒットしたが「張り合いになると思っていた」とこれは想定内だった。
角界入り前の中学時代、10数人の高校生の集団に単身で乗り込んで全員をぶちのめすなど、数々の武勇伝を持つ“元ケンカ番長”はこの一発で完全にスイッチが入った。すぐさま上から叩きつけるような張り手を“平成の怪物”と言われた男の左側頭部に見舞った。
「キレました。乗ったらいけないけど、相手に合わせてしまった」と、いつもは冷静な武双山もこの一発で頭に血が上ったようだ。千代大海がなおも速射砲の突っ張りを相手の顔面に浴びせると、大関候補の26歳は大振りの右からの張り手。同時に22歳の新関脇も“左フック”を見舞うが、両者の距離がやや開いていたこともあり、ともに空を切った。
今度は元ケンカ番長が“右フック”と見せかけたフェイントで、左からまるでストレートのような強烈な張り手を打ち込んだ。平成の怪物もほぼ同時に右張り手で対抗するとそのまま休まず押し込んだが、一瞬、引いたところで千代大海が反撃。両者はほぼ土俵中央で互いに相手の動きをうかがうように、離れた状態でしばし見合う体勢となった。
審判部長「ボクシングのヘビー級より迫力が…」
張り手合戦はなおも続いたが「相手の口から血が見えた。ああなったら、廻しなんかいらない」と千代大海は、相手を押し込むよりもKOを狙うかのような張り手の連発で上体が徐々に起きてしまい、重心が浮いたところを武双山が下から押し上げ、最後は向正面に突き出して相手を土俵下に沈めた。
勝った武双山は東の二字口に戻りながら息を吐くと、血吹雪がパーッと宙を舞った。敗れた千代大海は取組中とは打って変わって淡々とした表情で深々と一礼し、静かに土俵を降りた。
武双山が10発、千代大海が7発と、合計17発の壮絶な張り手バトルに館内はヒートアップ。32秒の大激戦を土俵下で見守った佐渡ヶ嶽審判部長(元横綱琴櫻)のコメントも「ボクシングのヘビー級よりもっと迫力がすごかった。久しぶりに興奮したね」と思わず熱を帯びた。
「力は出し切れた。流れでああなっただけで、どっちが勝ってもおかしくなかった」と語る勝者に笑顔はなかった。一方の千代大海は「相撲だもん。因縁とかはないよ。でも、次やるときも張り手でいくよ」とのちに“ツッパリ大関”と言われただけに、敗れてなお血気盛ん。
闘志と闘志がぶつかり合った“バチバチ”の戦いであったが、当時の時津風理事長(元大関豊山)は「2人のファイトは買うが見苦しい」と苦言を呈するなど、賛否両論が相半ばした一番だった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b20061f37c48a88b254082592f4741e307449e4b
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